2019年 NFLドラフト注目選手 QB編

2019年2月13日
スーパーボウル閉幕後の余韻を感じる暇もなく、CFBの超人が集う「天下一運動会」ことNFLスカウティングコンバインが間もなく開催されます。

NFLが先日発表した招待リストを元にDr.FOOTBALLが注目する選手を各ポジション毎に紹介して参りますので、コンバインからドラフトまでの「観戦」の参考にして頂けると幸いに思います。それでは筆者の専門分野であるQBのポジションから覗いてみましょう。



Dr.FOOTBALLが注目する14名のQB

NFLが公開したリストより14名の選手をピックアップしました。Dr.FOOTBALLの熱烈なファンの皆さんならば、お馴染みの顔ぶれではないでしょうか。



カイラー・マーリー オクラホマ大

日頃フットボールを扱わないような国内メディアでも取り上げられているだけあって、今回ナンバーワンの注目度と言ってよいでしょう。「外野」はNFLでの契約金目当てのドラフトへのエントリーとか書き立てておりますが、筆者個人としてはフットボール選手としての「矜持」がカイラーを衝き動かしたのではないかと感じております。全てのフットボール選手にとって、NFLでプレイするのは「カネ」や「ステイタス」ではなく「ロマン」ですからね。身長の低さは最早ハンディキャップではありません。彼のスケールの大きいプレイは必ずNFLでも通用する事でしょう。



ウィル・グリアー ウエストヴァージニア大

マーリーがドラフトにエントリーする前は、QBのカテゴリーで最も注目を受けていた選手です。ブレット・ファーヴを彷彿させる剛腕に関しては間違いなくNFLのレベルに達してますが、時折とんでもないトコロにパスを放ってインターセプトされる場面が見受けられるため守備を読み取る力がイマイチ弱いように感じられます。また、Big 12のタイトル争いよりチームが脱落してからモチベーションがダダ下がりしたのか、ドラフトを控えてボウルゲームの出場を回避。筆者としては、最後までやり切らないメンタリティに対して疑問を呈さずにはいられません。



ドリュー・ロック ミズーリ大

NFL候補生の査定と発掘の場となる学生オールスター戦シニアボウルより、自らの「株価」を上昇させている選手です。投球メカニズムはかつての「投げる天才」ジェフ・ジョージのそれに重ねられる洗練されたパサーで、殆どプロのレベルであるアラバマ大守備との対戦経験も彼のレベルアップに寄与しています。さらに他のドラフト候補生達がボウルゲームでのプレイを回避する中、今まで一緒に頑張ってきた仲間達と最後までプレイする事を選択。メンタリティ的にもリーダーの資質十分で、個人的には先のグリアーより高く評価しています。



ドゥエイン・ハスキンス オハイオ州立大

強力な攻撃ラインのパスプロテクションと小粒ながらもレベルの高いWR陣を背景に投げまくって、2018年シーズンはパスで4831ヤードに50TD獲得。さらにBig Ten最優秀選手に選出、ハイズマン賞最終選考にも残りました。派手な数字や栄誉に目を奪われてしまうトコロですが、よく見ると結構「アラ」のある選手です。特定の隊形からのプレイしか経験していないため、NFLの多彩な攻撃隊形に対応出来るかは未知数。リリース時に身体を前面に倒す投球メカニズムから守備フロントに刺し込まれた際にボールを放れなくなってしまったり、局面を打開するようなフットワークを持ち合わせていない等、パスプロテクション内に留まる「古典的」ポケットパサーである故の弊害も散見。幼少期からオハイオ州立大のクリニックに参加するなど恵まれた家庭(経済)環境で育ってきたのは良いものの、ゲーム終盤で集中力に欠く場面やインタビューの表情から若干「お坊ちゃま」に育てられた感は拭えない等々…その評価が「バブル的」であるのは否めないように思います。



ガードナー・ミンチュー ワシントン州立大

2018年シーズンに彗星の如く現れた「CFB界の立川談志」こと「さすらいのヒゲ野郎」もドラフト候補生としてにわかに注目を浴びています。彼のプレイぶりを例えるならば「動けるカート・ワーナー」。投げる判断を下してからの球離れが異常に速いのが最大の特長です。守備フロントに刺し込まれた際のエスケープについても秀逸で、自らのフットワークで局面を打開出来る能力を有しています。四年生のみの先発経験にミソをつける声もありますが、ワシントン州立大編入前に在籍した学校でゲーム勘は十分に養われているためその点も問題はないはず。ダークホースとして筆者が猛烈にプッシュしている選手です。



トレイス・マクソーリー ペンシルヴァニア州立大

「CFB界の氷室京介」は何と言っても面構え、特に瞳の輝きが今年のドラフト候補の中ではピカイチ。明らかに勝機が無くなった最後の攻撃ドライブでも手を抜く事なく全力でプレイする姿を見て、早くも伝統あるペンステイトのレジェンドと同席に列せられているのに納得させられました。まあ、こんなにマクソーリーへの想いが溢れる動画を制作するファンの方も出てくる位ですからね。カイラーのようにサイズ不足を指摘する向きがありますが、創造性あふれるプレイは勿論メンタリティとフィジカルの強さにおいても、NFLのフランチャイズQBとしての資質を備えていると断言して良いでしょう。



ジェイク・ブラウニング ワシントン大

こちらのハイライトで最も強調されているのが、絶妙なポイントにボールを落とせるコントロールがブラウニング最大のセールスポイント。反面、投球時に「よいしょ」と一呼吸置いているため、守備フロントに刺し込まれた際のクイックスローや中央のゾーンに鋭い弾道でねじ込むパスがイマイチなのは否めません。猫背気味の姿勢のQBは自分のタイミングで投げられないとパフォーマンスが崩れてしまう傾向にありますが、彼も若干それに当てはまるような気がします。大学二年生時にチームをプレイオフに導いた「ワンダーボーイ」ですが、この二年間は「boy」から「guy」になり切れなかった感が非常に口惜しい限りです。



ライアン・フィンリー ノースカロライナ州立大

2017年シーズンは同カンファレンスの「盟主」であるクレムソン大に肉薄したゲームを展開した「ライフルアーム」でしたが、2018年シーズンの対戦ではその時の活躍がウソのようにクレムソン大守備によって蹂躙されてしまいました。あのアラバマ大をフルボッコにした守備にかかってしまうと仕方ない気もしますが…レシーバーがフリーになってパスプロテクションが維持されていれば自由自在にパスを投じる事が出来る選手ですが、そのような環境が整っていない時に局面を打開する「ファンタジスタ」的なプレイを期待するのは若干シンドい感じです。素材的にはNFLの選手のそれを備えているので、もう少し「遊び心」をもってプレイすればブレイクスルー出来るのではないかと思います。



ジャレッド・スティダム オーバーン大

Source : Jarrett Stidham | 2018 Highlights on YouTube

 

「CFB界の二谷英明」も最終学年を終えてNFLドラフトを控える事になりました。2017年シーズンの「アイアンボウル」でアラバマ大を撃破して一躍スティダムならぬスターダムに乗った勢いを、最終学年の2018年シーズに昇華させる事が出来なかったのは先述のブラウニング同様に口惜しい限りです。NFLのQBに例えるとアレックス・スミスのように投走のバランスが取れておりプレイの遂行能力が非常に高い選手なので、NFLにおいても「買い手」は必ず現れるはずだと思います。



ニック・フィッツジェラルド ミシシッピ州立大

Source : Nick Fitzgerald: The Return on YouTube

 

とにかく決められた場所(というかレシーバー)にブン投げる感じのパスはNFLにおいて厳しいものがありますが、走る方はと言うとかなり光るものが。タックルをかわすアジリティとパシュートから逃げ切るスプリント能力だけでなく、デカい頭を活かしてタックラーにブチかませる力強さも兼ね備えています。プロパーのQBというよりも、現ニューオリンズ・セインツのテイサム・ヒルのような起用法でNFLのロスター入りが出来るかも知れません。



ブレット・リッピン ボイシー州立大

その姓を聞いてピンときたオールドファンの皆さんは後明察です。そう、第26回スーパーボウルでMVPを受賞した元ワシントン・レッドスキンズQBマーク・リッピンの甥(ちなみに御令嬢はLFLでプレイしていたとの事)であります。ワシントン州立大出身の大型パサー系譜の「始祖」として豪快に投げまくったおじさんとは対照的に、短いパスをセンスよく投げるタイプです。良く言えばコンパクトにまとまっていますが、守備フロントに刺し込まれながら強いパスをねじ込んだりする「ファンタジスタ的」能力が備わっているとは言い難いのが正直なトコロ。もしドラフト指名されなかったら、おじさんの「コネ」でレッドスキンズのキャンプに参加するのは確実でしょう。



ダニエル・ジョーンズ デューク大

2018年シーズンのデューク大躍進の中心となった選手でありますが、投球メカニズムに関してはロサンゼルス・チャージャースQBフィリップ・リヴァースのような「おっつけ波動拳」風です。飛距離と正確性を伴っていれば変則投法であろうとNFLでも通用出来るのはリヴァースが証明していますが、彼のスキルがそのポテンシャルを持っているかどうかは未知数であります。「走り屋」としての能力は折り紙つきなので、パサーとして厳しいようであればテイサム・ヒルのように「何でも屋」としてNFLのロスターに残るという選択も残されるような気がします。



クレイトン・ソーンソン ノースウエスタン大

大学の先輩でデンヴァー・ブロンコスにて先発経験があるトレヴァー・シーミアンに近い、プレイの遂行能力が高いタイプの選手です。最終学年はカンファレンス決勝までチームを導いたリーダーシップもかなり評価出来ますが、能力的に突き抜けたものがある訳ではないのでトップ指名を受けると予想される面々と比べると見劣りするのは否めません。指導を受けるコーチによって化けるかどうかと言った感じでしょうか。ちなみに、素顔はコメディアンからラーメン業界に身を転じたデビッド伊東さんっぽいです。



ジョーダン・タムー ミシシッピ大

スラッとしたスタイルのカッコ良いQBですが、「マスク」の方もTOKIOの長瀬智也さんに似てなくもないような感じです。大学三年生の2017年シーズンにシェイ・パターソン(現ミシガン大)から先発の座を奪ったまでは良かったのですが、最終学年の2018年シーズンは開幕から先発を任されたものの今ひとつピリッとしませんでした。彼のような均整の取れた体格のQBは一見「やりそう」なのですが、何故かNFLでは成功しないケースが多いんですよね…



半数はドラフト外入団からのスタート、そしてどのNFLチームが彼等を狙うか

例年NFLドラフトで指名されるQBは6人ないし7人が良いトコロ。しかも筆者がピックアップしていない選手が突如踊り出る可能性もあるため、上記の選手の半分以上が指名されない可能性は否めません。それでもプロフットボール選手となる夢を捨てきれぬ場合はドラフト外新人としてNFLのキャンプに参加してチャンスを模索し、そこでも夢破れた際はCFLや屋内フットボールに身を投じるコースが相場であります。野球の捕手やサッカーのGKのように同一チームに必要な人数が他のポジションに比べて極端に少ない「専門職」である故の厳しさですが、既に開幕しているAAFや来年から発足するXFLの新興リーグは間違いなく彼等の「受け皿」となるだけでなく捲土重来の「ロイター板」になる事と思います。

現在の先発に期待出来ないチーム(フロリダ州所在の3フランチャイズは確実)は勿論、長年先発を務めているQBの「跡継ぎ」を探しているチームが彼等の内からドラフト指名する事は大方でも予想されていますが、筆者個人としては意外なチームが動くのではないかとニラんでいます。

ひとつはジョン・グルーデンHCのオークランド・レイダース、もうひとつは先日のスーパーボウルでほぼ完封されて傷心ホヤホヤのロサンゼルス・ラムズ。両チームともデレク・カーとジャレッド・ゴフという若々しいフランチャイズQBを擁していますが、よく考えてみると両名とも現HCがドラフト指名した選手ではありません。雄ライオンが新しい縄張りで既存の仔ライオンを「粛清」するが如く、NFLとCFBに関わらずHC(特に攻撃出身者)という人種には自分が獲得していないQBを放逐する性(さが)があると言えるからです。サンフランシスコ・49ersのジム・ハーボーHC(現ミシガン大)がドラフト全体一位指名のアレックス・スミスをベンチに下げて自らが指名したコリン・キャパニックを抜擢したケースを覚えてらっしゃる方も多いのではないでしょうか。能力が高くともHCが標榜するフィロソフィーに合わない、或いは既存の先発を上回る「何か」を持つ選手を見つけた等の理由が考えられますが、いずれにせよ上記のドラフト候補生にとっては「好機」が増えると言って良いかも知れません。

また、フィラデルフィア・イーグルスのニック・フォールズとボルティモア・レイヴンズのジョー・フラッコ等の実績あるパサー達の移籍先も見逃す事が出来ないでしょう。先発としてガンガン投げられる彼等を獲得出来たチームはQBを指名する必要が無くなるため、彼等の「進路」に大きく影響するはずです。

昨年ほどの「当たり年」感は無いにしろ、今年もQBにまつわるドラフト戦線はホットであるのは間違いないと思います。




[了]

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