屋内フットボールに関する一考察 – 2017年版

2017年5月30日

屋内フットボール一考察.其の一 「CAFL(チャイナ・アリーナ・フットボール・リーグ)」

CAFL(チャイナ・アリーナ・フットボール・リーグ)という、 中国の屋内プロフットボールが存在する事を皆さん御存知でしょうか?

まずはこちらのCAFLの決勝戦、北京ライオンズと青島クリッパーの対戦となったチャイナボウルを御覧下さい。最後まで目が離せない見応えのあるゲームであります。
アメリカ資本主導で運営されているためコーチと選手の殆どはアメリカ人で、そこに中国人選手が加わっているというのが基本的なチーム構成です。垢抜けないユニフォームのデザインや、キックオフ前の自己紹介でイキっている選手が見られたりと御愛敬な点があるものの、肝心なプレイの質はと言うと決して馬鹿にする事が出来ません。

少なくともここでプレイしているアメリカ人選手に関しては、体格・スピード・技術の全ての要素において日本人のトップリーグの選手よりも上回っているように感じられます。そんな彼等も、我々が知るNFLからは程遠いレベルの所にいる訳ですが…


屋内フットボール一考察.其の二 「AFL(アリーナ・フットボール・リーグ)」

こちらはアメリカ本国の屋内フットボールの老舗、AFL(アリーナ・フットボール・リーグ)の2017年シーズンのゲームになります。しかし天下のCBSがTV中継しているとは大したものです。

CAFLに比べると一段階レベルが上がっているのも御理解頂けるのではないでしょうか。両軍ともにQBはつるピカハゲ丸くんですが素早いリリースから絶妙なコントロールのパスを披露しており、関西学院大みたいなユニフォームの方の81番と水色のヘルメットの方のプレデターみたいな7番の両レシーバーも相当やる選手です。

ゲーム終了まで残り1分間を切って2ポゼッション差であってもセーフティリードにならないのは、屋内フットボールの特性に加えて彼等の能力があっての事と思います。


屋内フットボール一考察.其の三 「AFLから殿堂入りへ。カート・ワーナー」

そしてAFLと言えば「彼」を抜きに語る事は出来ないでしょう。

時給5ドル50セントのスーパーマーケットの店員から年収14億円のスーパーボウルMVPとなり、晴れてプロフットボール名誉の殿堂入りを果たしたカート・ワーナーもAFLの「卒業生」であります。

こちらのAFLの決勝戦である第10回アリーナボウルは色々な所で時代を感じさせますが、スナップを貰ってからのカートのリリースの素早さは現在のフットボールで考えても尋常でありません。後にNFLの歴史に様々な偉業を刻み込む訳ですが、この「修業時代」がキャリアの根幹を成している事に疑いの余地はないでしょう。

このゲームでの対戦相手のQBが、学生QBいじりを最早ライフワークとしているジョン氏の弟…と言うより現ワシントン・レッドスキンズHCのジェイ・グルーデンであるのも大変興味深いです。早いタイミングのショートパスで彼が攻撃を組み立てているのも、この時の経験が影響している事は想像に難くないと思います。

決勝戦では盛況に見えるAFLですが、倒産したり他リーグに移籍するチームが続出したため2017年現在ではたったの5チームによる構成となってしまいました。レギュラーシーズンのゲームのスタンドを見ると空席が目立っており、集客の方でかなり苦戦しているようです。


屋内フットボール一考察.其の四 「IFL(インドア・フットボール・リーグ)」

AFLに対抗している屋内プロフットボールリーグがIFL(インドア・フットボール・リーグ)であります。ここで、2017年シーズンのアイオワ・バーンストーマーズとグリーンベイ・ブリザードによるゲームをどうぞ。

先述のカートも在籍していたこちらのバーンストーマーズや元横綱の花田勝さんが挑戦したアリゾナ・ラトラーズなどAFLからの移籍組を合わせて、IFLは2017年現在で10チームの構成になっています。それにしても、屋内フットボールのチームは「ソウル」「ブリザード」「ストーム」等の不加算名詞のニックネームが好まれるみたいですね。

AFLとの大きな違いとしては、ゴールポストの両側に設置されているリバウンドネットが存在しない事。外に出ようとするボールをデッドにしないこの「小道具」はAFLの特許であるため、他の団体は使用出来ないようです。

さらに、戦術的な面においてRBのプレイが多彩である事。AFLではRB=パスプロテクション要員またはショートヤードのボールキャリアーという認識に留まっていますが、こちらに関してはショットガン隊形からのリードオプションやトス等の通常のフットボールで見られるようなプレイも頻繁に行われています。


屋内フットボール一考察.其の五 「NAL(ナショナル・アリーナ・リーグ)」

こちらのNAL(ナショナル・アリーナ・リーグ)は2017年からスタートした出来立てほやほやの新興リーグであります。AFLの移籍組も合わせて現在8チームで、さらに1チーム増える予定との事です。

ピッツバーグ・スティーラーズの海賊版みたいなチームは、何とメキシコの大都市モンテレーが本拠地。ホームゲームの実況は当然ながらスペイン語なので、何だかサッカー中継を観ている気分になります。QBのヘアスタイルもひと昔前の中南米のサッカー選手に見えなくないような…(ヘルメットを取ると"You're the Only…"が流行った時の小野正利さんっぽいですが)

神戸大学みたいなユニフォームの方はAFLからの移籍で、アリーナボウルにも出場していた強豪チームです。そういった事情もあってか、リーグ発足に伴って出来たばかりのチームとの実力差は歴然としています。名前がスーパーボウルMVPの海賊版みたいなエースQBトミー・グレイディはオクラホマ大とユタ大でのプレイ経験と2mを超える長身の持ち主ですが、これらのスペックを上回る日本人QBを見つけるのは誰が考えても明らかに不可能でしょう。


Source:Sharks vs Steel- Complete on YouTube.com

 

 

屋内フットボール一考察.最終章 「屋内フットボールから学ぶべき3つのこと」

以上より11人制の「本チャン」とはまた違った屋内フットボールの面白さを感じ取って頂けると幸いですが、同時に我々日本でフットボールに携わる人間にとって学ぶべき事も少なくありません。個人的に感じるものを幾つか挙げていきたいと思います。


①NFLと日本のフットボールの間にあるギャップを測る「通過点」

これだけフットボールが上手い彼等でも、NFLは勿論CFL(カナディアン・フットボール・リーグ)の選手登録さえ至っていないという現実があります。NFLが宇宙に存在し日本人が地表の辺りにいるとすれば、彼等は「大気圏外」に位置しているといって良いでしょう。漠然と「NFLを目指せ!」と言うより、まずは彼等のレベルを通過する事を論ずるべきだと思います。


②各ポジションの個人技術習得のお手本

「本チャン」のフットボールより三人少ない人数かつ四分の一の狭いフィードという条件が「戦術」に依存する事を許さない故、「走る」「投げる」「捕る」「ブロックする」「タックルする」といったフットボールの基礎動作がプレイの成否に大きく影響しています。そのような基礎動作に加えて球技特有の「遊び心」に根差した創造性も垣間見えるため、何かと「四角く」考えがちな我々日本人選手に大きな刺激を与えてくれるかも知れません。必ずしも「少ない」「狭い」=「悪い」という訳ではありませんからね。


Source:WEEK 10 HIGHLIGHTS: Spokane at Arizona on YouTube.com

 

 

 

③ファンサービス

スタンドとフィールドが密接しているという舞台装置に甘んじる事なく「攻め」のファンサービスを敢行している点を、我が国の運営団体は多いに参考すべきでしょう。TD後のセレブレーションに制限を加えない、スタンドに入ったボールはプレゼント(それゆえコストを抑えているせいかボールがかなり滑り易いように見られますが…)、得点後には頻繁にファン参加型のイベントを挟む等々…フットボールが含まれる「ショウ」スポーツ業界はお客様に足を運んで頂いてナンボです。我々フットボール選手の真のエネルギー源はプロテインなどのサプリメントではなく、ファンの皆さんの声援とチケットやグッズに対する「お支払い」である事も忘れてはなりません。


その他、選手数が少ないチームが練習の一環としてこの形式を取り入れる(WRの縦モーションもDBにとって練習になるかも)、今後バスケットボールのBリーグが盛んになってアリーナのビジネス計画に乗せてもらう等、この「競技」は日本においてフットボールがブレイクスルー出来るヒントを沢山与えてくれるのではないでしょうか。同じ装具とボールを使って同じ動きをしている以上、「別腹」や「ゲテモノ」とスルーしてしまうのは何だか勿体ない気がします。



「フットボールの上にフットボールを作らず、フットボールの下にフットボールを作らず」で、引き続き様々なフットボールを皆さんに紹介していこうと思った2017年の春シーズン終盤であります。





[了]

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