2019年 NFLドラフト注目選手 DT編

2019年3月6日
今回の2019年NFLドラフト注目選手特集はスクリメージラインの「守護者」DT。有望株達の紹介に加えて、近年このポジションの著しい「進化」についても検証して参りますので暫しお付き合いの程を。


注目のDT7選

まずはDr.FOOBALL注目の七人の侍ならぬDT、それぞれの2018年シーズンのハイライト動画と共にチェックして参りましょう。

クイネン・ウィリアムズ アラバマ大クリムゾンタイド

CFB最優秀ラインに贈られるアウトランド賞を2018年シーズンに獲得、このポジションにおいて今年最も注目を浴びているドラフト候補生であります。自身の純然たる「強さ」に寄りかからず、腕を使ってOLを押し込んでからプレイに反応する「本格派」スタイルを体現している選手です。細かいハンドテクニックやスタンツにおけるフットワークやボールキャリアーへのパシュートについても申し分なし。スカウティングコンバインでは40ヤード走で何と4秒87を叩き出す「快足」ぶりを披露。あらゆる守備システムにフィット出来そうなので、NFLにおいても相当高い確率で活躍するように思われます。ちなみに素顔は『ドラえもん』のジャイアンそのもの。実写版を制作するならばキャストに推挙したいトコロです。



ドレモント・ジョーンズ オハイオ州立大バッカイズ

地の果てまでパシュートし続ける運動量に定評のあるオハイオ州立大のDLユニットですが、その中でもスクリメージラインを突破するスピードとアジリティが出色の選手であります。ただし若干スリムな(といっても193cmに134kgですが…)だけに、OLのダブルチームをこじ開ける程のパワーを持ち合わせているとは言い難いです。正面からの「タイマン」勝負でもOLから良いブロックを貰ってしまう場面がしばしば見られるので、NFLでは3-4隊形におけるDEの起用がベターのような気がします。



エド・オリヴァー ヒューストン大クーガース

先述のジョーンズとは対照的に、こちらのオリヴァーはダブルチームのブロックを物ともしない突破力が最大のセールスポイントであります。スカウティングコンバインのベンチプレスでも32回をマーク、膂力(りょりょく)の強さを証明しました。ミソをつけるとすると、勢いがついた自分の身体をコントロールし切れずタックルミスする場面も散見。「超人系」RBや「ファンタジスタ系」QBがワンサカいるNFLに飛び込むとなると、その辺りの修正が必要になってくると思います。



ジェフリー・シモンズ ミシシッピ州立大ブルドッグス

LBをひと回り大きくしたような均整の取れたフレームで、高いレベルのアジリティとフィジカルに基づいた機動力と突破力を兼備している選手です。更に、スクリーンの「ニオイ」を感じ取ってラッシュの最中でもピタッと止まれるクレバーさも持ち合わせています。あのアラバマ大の強力OL陣との1対1のマッチアップではなかなか良い勝負をしていたため、ほぼコンビネーションで対応される「栄誉」を受けました。素材的には今年のトップクラスに挙げられるタレントでありますが、過去に女性を殴打する事件(しかも証拠となる生々しい動画が公開されているという…)を起こしているため、今後のキャリアは精神面での修正がどれだけなされているかによって決まるような気がします。



ジェリー・タイレリー ノートルダム大ファイティングアイリッシュ

身体の大きさと強さを活かしてOLのブロックを突き破る「破壊者」的なプレイスタイルが持ち味です。ただしスタートの速さはそこそこ、加えて身体をOLに預けてしまう傾向が若干見られます。純粋に当たりが強くて腕が長いNFLのOLとマッチアップするとなれば、技術の修正はしておきたいトコロ。また、カッとなり易く不要なラフプレイを行ってしまう事があるため、精神面のコントロールも今後の課題となるでしょう。そんな普段の猛々しさとのギャップで、半分くらいのサイズの女子学生と慎ましく化学の実験を行っている授業風景の動画には可笑しく感じてしまいました。将来はNFL選手だけでなく、様々な進路を視野に入れている「マルチタレント」でもあります。


デクスター・ローレンス+クリスチャン・ウィルキンス クレムソン大タイガース

                                       

クレムソン大の全米王座奪還の原動力のひとつとなったのが、最前線で「関所の門番」を務めたこちらの両選手。昔ながらの「関取」体型ながら高い運動能力を有しているのは「今風」であります。


まずはデクスター・ローレンスのハイライトから御覧下さい。
かつてNFLにおいて圧倒的な存在であったウォーレン・サップの188cmに136kgを上回る193cmの159kgのサイズを誇り、その上「CAT」と呼ばれたサップ同様の俊敏性を有している恐るべき存在です。腕を使ってOLをコントロールしながら両肩をスクリメージラインと平行に維持してプレイに備えるといった、基礎技術を疎かにしていない点も高評価。若干ミソがついてしまったのは、禁止薬物検査での陽性反応により2018年シーズンCFP王座決定戦への出場を禁じられてしまった事。薬物使用はクセになってしまう可能性があるため、その辺りはNFL入り前にクリアして欲しいトコロです。



続いてクリスチャン・ウィルキンスのハイライトをどうぞ。
先頭のウィリアムズ同様に今年のドラフト候補生では「本格派」と目される選手で、その特長に関しては枚挙に暇がありません。ひとつは卓越したハンドテクニック。ゾーンブロックやパスプロテクションをかわすのは勿論、カットオフのような低いブロックを切る技術の高さもうかがえます。第二にNG、DT、DEの全ての守備ラインのポジションをこなせる器用さ。複雑な隊形やテクニックを採用するNFLチームにおいても必ずや汎用性の高さを発揮する事でしょう。そして、基礎技術の習得度の高さも強調しておかなければなりません。いきなりボールキャリアーに飛び込まず距離を詰めてから刺し込むタックルや、フリーになった際にスクリメージライン上で両肩を平行にしてプレイを判断するトコロなど、自身の能力に依存していない点も魅力であります。三年生を終了した時点でNFLドラフトにエントリーせず全米王座を目指すためにチーム残留を決意した貢献心、CFP王座決定戦にて自陣レッドゾーンに侵入したアラバマ大攻撃にランプレイでのTDを許さなかった集中力など、メンタルに関してかなり強靭である事もお墨付きです。



ローレンスとウィルキンスの両選手に共通しているのは、自軍がゴールラインに迫った際にRBとして攻撃参加する点です。しかもFBにローレンスそしてTBにウィルキンスと二人同時にIフォーメーションで起用され、エンドゾーンへ確実にボールを運ぶ「無双」ぶりを発揮していました。ゴール前の攻撃でRBとして起用されるDTと言えば、かつてシカゴ・ベアーズに在籍していた「冷蔵庫」ウィリアム・ペリーを思い出されるオールドファンの方も多いかと思われますが、奇しくもぺリーはクレムソン大の先輩になります。ローレンスとウィルキンスがNFLにおいてもボールキャリーする確率はかなり高いように考えられ、その際にフラッシュバックでペリーが紹介される事は想像に難くないでしょう。



DTの「進化」に見られるシステムとポジションの因果関係

今回紹介させて頂いた選手に加えてロサンゼルス・ラムズのアーロン・ドナルドが現在のNFLで存在感を示している通り、以前に比べてスリムな選手をDTのポジションに配置するトレンドが見受けられます。従来の「関取」体型というより、1980~90年代のMLB(ミドルラインバッカー)のイメージでしょうか。それに伴い同ポジションにおいて、プレイへの反応スピードに加えて所謂「1テクニック」や「3テクニック」と呼ばれる内側の位置だけでなくDE的な外側の位置からもプレイ出来る器用さも要求されるようになっています。

このようなDTというポジションの「形態」変化の根源を検証してみると、やはりスプレッド攻撃の普及に行き着くというのがDr.FOOTBALL的な見解です。ショットガン隊形からのパスやリードオプションに対応出来るように「ダウンサイジング」してLBの機動力向上を図ったのが第一段階。動きが専門的になってきたLBとのマッチアップを有利にするため全スキルポジションの特性を備えた「超人」をRBに配置するスキームが進んだのが第二段階。そして彼等のスピードやアジリティに対応出来る「前時代」的LBのような俊敏性を持つ選手をDTに配置するトレンドが形成されたのが第三段階…とニラんでおります。

1950年代のフットボール界で全盛だったのは中央にDLを密集させる5-2イーグル守備でしたが、攻撃のゾーンブロッキングでDLが全員捕捉されるとパシュート出来る人員が不足してしまったり、中央付近にTEがパスを捕球出来るゾーンを作ってしまうという構造的欠陥を抱えるシステムでした。そこでMG(ミドルガード)と呼ばれる中央のDLの選手を後方に下げてLB的な役割を与えるスキームを実験的に行って普及したのが、現在では一般的な4-3守備のシステムとMLBのポジションであります。言うなれば、現在はMLBがDLの場所に「先祖返り」している状況と解釈出来るかも知れませんね。

「時代は繰り返す、もしくは反転する」のは勿論ですが、歴史上に見られない全く新しい展開も可能性も無視出来ないでしょう。このDLの「進化」に対して、彼等とマッチアップするOLの「革命」が次に起こるのではと個人的に予想しております。フットボールという競技が我々を惹きつけて止まないのは様々な局面で常に変化が見られるからであると、今回の特集で再認識させられた次第です。




[了]

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