2018年CFB注目選手 vol.17 オクラホマ大 QB カイラー・マーリー

2018年11月3日
早くも多くのルーキーQB達が先発を任されているNFL2018年シーズン。お馴染みベイカー・メイフィールドもその一人としてクリ―ヴランド・ブラウンズで奮闘しておりますが、彼の後継者としてオクラホマ大を牽引している「二刀流」の選手もCFBに旋風を巻き起こしています。


180cmもないであろう身長と日本人ばりの手足の短さに加えて、近年その径が大きくなっているヘルメットを被った姿は、まるで「キューピーちゃん」そのもの。パッと見はそんな印象のオクラホマ大三年生QBカイラー・マーリーですが、前任のメイフィールドを補って有り余るとんでもないプレイを披露しています。


ハイスクール~テキサス農工大~オクラホマ大 ハイライト

まずはハイスクールからテキサス農工大時代、そしてオクラホマ大での2017年シーズンにおけるハイライトを御覧下さい。
御覧頂いた動画からも分かる通り、実はマーリーのCFBキャリアはテキサス農工大からスタートしました。ハイスクール選手の格付けランクでも「五ッ星」の評価を受けていた事もあり、2015年シーズンの途中から一年生で先発に抜擢。そこでキャム・ニュートン(オーバーン大)以来となる、初先発ゲームにてランとパス共にTDを含む100ヤード以上を稼ぐというSEC記録を残しました。テキサス農工大にて将来を嘱望されながらも、当時のチームに組織的な脆弱性が見られたためか転校を決意。NCAAの規則に従い2016年シーズンは「浪人」扱いとなり、2017年シーズンより晴れてオクラホマ大の一員としてプレイ出来るようになった訳です。

投げてはエンドゾーンに正確な鋭いボールをねじ込み、走っても自らの足でいとも簡単にファーストダウンを奪ってしまうという感じで、守備側からすると手のつけられないアスリート度は2016年シーズンのラマー・ジャクソン(ルイヴィル大)に近いものがあります。それにしても体格に恵まれたジャクソンならいざ知らず、我々日本人と殆ど変らないフレームであれだけ投げられるのも実に驚異的です。




2018年シーズン前半戦 ハイライト

それでは、周囲の注目を集めた2018年シーズン前半戦のハイライトを追っていきましょう。

対フロリダ大西洋大

格下のフロリダ大西洋大との開幕戦で数字的にまずまずだったせいか、周りの評価も「まぁ、こんなものか」という感じでした。マーリーにとってはまだ「アイドリング」に過ぎなかったのが、これから後のゲームで分かる事になります。



対UCLA戦

CFB復帰戦を落としてしまった上に先発QBを負傷で失って傷心のUCLAチップ・ケリーHCでしたが、そんな事おかまいなしにマーリーは傷口にタバスコを塗り込むが如く完膚なきまで叩きのめしてしまいます。この辺りから「マーリー株」急騰の兆しが見えてきました。



対アイオワ州立大戦

ここ最近はBig 12の「上位校キラー」となってカンファレンス内をかき回しているアイオワ州立大。昨シーズンにオクラホマ大を下しているのとホームでのゲームであったため、ひょっとして今年も…と思わせる雰囲気がありましたが、マーリーの御覧のパフォーマンスによって一蹴されてしまいました。



対テキサス大戦

キャッチアップは出来ず同カンファレンスのライバルに土をつけられたゲームでしたが、5TDの猛攻を見せたのは流石。先輩のメイフィールドがゲーム前に「あのチームは好きじゃない、アイツらが負けて帰るトコロを見るのが楽しみだった」みたいな事をSNSでぶちまけて、テキサス大のメンバーに火をつけたのが最大の敗因だったと思います。



対TCU戦

かなりTCUも肉薄しましたが、レッドゾーンで確実にTDにつなげた効率のよい攻撃で何とか勝利。それにしても、オクラホマ大のマーチングバンドは今シーズンに入ってTD後のファイトソングをかなりの頻度で演奏していますね。



昨シーズンから今シーズンにかけて爆発的な得点力を毎ゲーム発揮しているオクラホマ大攻撃ですが、実のトコロこれがチームにかなりの功罪をもたらしています。どうせ攻撃が取り返してくれるだろうという空気が守備に蔓延してしまっているせいかパシュートやタックルが全く怠惰になり、勝ったゲームでもかなりの獲得距離と得点を許してしまう事態に。テキサス大に敗れたのを契機に、チームは前HCのボブ・ストゥープスの弟であるマイク・ストゥープス守備コーディネーターの解雇を断行。皮肉な事に攻撃が好調を維持すればするほど、守備が停滞する「オクラホマ症候群(グリーンベイ症候群とも言う)」の根治は難しくなりそうです。




マーリーの素顔 -打ってもスゴイ「二刀流」-

それでは恒例の素顔チェックに参りましょう。
はちまきタオル(?)姿を見ると、歌手の竹原ピストルさんに見えなくもないので良い声をしているような気が。筆者も大ファンであるESPNのアナリストであるマリア・テイラーと並ぶと、アメリカ人のQBとしてはいかに彼の背が低いかよく分かります。(ちなみにマリアは188cmで、元ジョージア大のバレーボール選手であります )


冒頭でも述べている「二刀流」の意味がこちらで御理解頂けたかと思いますが、マーリーは野球選手としても高い評価を受けており、何と2018年MLBドラフトにてオークランド・アスレティックスから全体9位で指名されました。どうやらアスレティックスも、黄金期を支えたリードオフマンであったリッキー・ヘンダーソンのような存在になる事を彼に期待しているようです。そしてフットボールファンとしては非常に残念な話ですが、来年からはMLBの選手として野球に専念する事をマーリーは表明しました。
ちなみに父上はマーリーの最初の進学先でもあるテキサス農工大でQBをプレイ、叔父上はテキサス大卒業後にMLBへ進んだという、優秀なアスリートの血筋が彼に流れている事も特筆しておきます。




CFBで輝きながらもMLBへ進んだ「先駆者」

やはりここで、マーリー以前にCFBでとんでもない活躍をしながらMLBに進路を向けた先達についてお話をしなければならないでしょう。2003年~2006年シーズンにおいて名門ノートルダム大ファイテイングアイリッシュに在籍していたWRジェフ・サマージアも規格外のプレイを披露していました。「Shark」の異名をとった、CFB時代のハイライトをまずは御覧ください

Source: 2006 “Oldies” Shark Attack on YouTube

 

CFBレベルのCBを子ども扱いする爆発的なリリースと球際での競り合いでTDを量産。CFBのオールアメリカン一軍と最も優秀なWRに贈られるフレッド・ビレトニコフ賞にそれぞれ二度選出され、NFLドラフトにて必ず高順位で指名されると予想されました。ところがサマージアが進んだのは、地元のシカゴはシカゴでもベアーズではなくMLBのカブスだったという…大学在学中にMLBドラフトで指名を受けていたという経緯はマーリーと同じだった訳です。


その後は幾つかのチームを渡り歩き、現在はサンフランシスコ・ジャイアンツの先発ローテーションに名前を連ねています。好調であった2016年シーズンのハイライトを御覧下さい。

Source: Jeff Samardzija 2016 Highlights on YouTube

 

フットボールでの野性的なプレイぶりとは対照的に、変化球を駆使しながらコースを突く丁寧なピッチングをしているのは大変興味深いです。打撃の方もなかなかのもので、その点ではナショナル・リーグ所属のチームにフィットしているかと思います。そして「普通」の選手と比べると、やはり身体はデカいですね。ちなみに2018年シーズンには、あの和製「二刀流」大谷翔平選手と対戦しております。

仮にサマージアがフットボールを継続したのであればNFLでも活躍をしていたのは間違いありませんが、33歳の段階で五体満足にプレイしているかと問われて「Yes」と断言する事は難しいと思います。MLBでローテーション入り出来ている現状を考えると、野球一本に絞ったサマージアの判断は「正解」だったのかも知れません。



「先輩」であるサマージアのように大学でフットボールを「卒業」してしまうマーリー。彼がパッズオンしてプレイ出来るのもあと僅かとなりました。将来偉大な野球選手になるやも知れないアスリートがフットボールのフィールドで駆け回る姿を、この目にしっかりと焼き付けておきたいものです。




[了]

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