2018年シーズンCFP全米王座決定戦 レビュー

2019年1月9日
CFBの2018年シーズンもついに千秋楽を迎えました。

クレムソン大タイガース(CFPランキング2位)とアラバマ大クリムゾンタイド(同1位)の対戦となった2018年シーズンCFP全米王座決定戦のレビューを中心にお話させて頂きたいと思いますので、今回もお付き合いの程を。



ゲームハイライト

「トルク」のSECと「スピード」のACCをそれぞれ象徴するチームの対戦という図式は前回や前々回と変わりませんが、NFLサンフランシスコ・49ersの本拠地であるリーヴァイス・スタジアムで開催された今回の勝負はどのようになったでしょうか。まずはゲームハイライトを御覧下さい。
第1Qこそ「ピック6」や長いパスの成功によって2TDずつを奪う立ち上がりでしたが、クレムソン大守備の奮闘によりアラバマ大攻撃が停滞。その間にクレムソン大攻撃はドライブと得点を重ね、何と31対16で前半終了。後半に突入してからもクレムソン大が追加点を挙げる一方で、アラバマ大は無得点に封じられ44対16で第3Qを終了。第4Qに入ってもクレムソン大守備のアグレッシブさは留まる事を知らず、スコアはそのままに試合終了。

クレムソン大はCFP制度移行後において二度目(トータルでは三度目)そして文句なしの15戦全勝(何とCFBでは1897年以来との事)で全米王座戴冠、そしてニック・セイバンHC政権下では最多得点差でのアラバマ大敗戦という形でCFBの2018年シーズンは幕を閉じました。



ゲームブレイクのポイント:両校守備のスタンス

このような得点差が生じてしまったのは、攻撃力の差というよりも守備のスタンスの違いによるものではないかと別のソースでのフルゲームを観て感じました。

クレムソン大守備の方はチーム特性であるスピードを活かした様々なブリッツを初っ端から積極的に運用して、終始アラバマ大QBトゥア・タゴヴァイロアに落ち着いてプレイする事を許しませんでした。アラバマ大の窮地を幾度と救っててきた一年生WRジェリー・ジューディも、出鼻のTDキャッチ以外はクレムソン大DB陣の前に効果的なパフォーマンスを発揮出来ず仕舞い。シーズン中に攻撃がこれほど停滞する経験も無かったため守備へのアジャストを十分に準備していなかったせいか、FGフェイクのH(ホルダー)のランやタゴヴァイロアのQBスィープ等の錬度の低そうな「小手先」感が否めないプレイを繰り出すので手一杯でした。このように、ゲームが進むにつれて対応が後手に回る悪循環にアラバマ大は陥っています。

一方のアラバマ大守備はレギュラーシーズンからDLのレベルで相手攻撃を封じる事が出来ていたため、このゲームの序盤も機軸のプレイを中心とした「横綱守備」で臨みました。予想以上にクレムソン大攻撃ラインのパスプロテクションが健闘した事もあり、一年生QBトレヴァー・ローレンスが伸び伸びとパスを投げる時間をアラバマ大は与えてしまいます。それに際してアラバマ大守備もスタンツを仕掛けますが、パスラッシュが今一つ届かずローレンスにパスを通されまくる状況は継続。その結果ローレンスは32試投20成功の347ヤードに3TD獲得、しかもインターセプトなしという驚異的な数字をこの大舞台で叩き出す事になりました。地上戦においてもRBトラヴィス・イーティエンが平均6ヤード以上の2TD獲得と効果的に走り、ゲーム終盤にはスクリメージの掌握権をクレムソン大へ完全に渡してしまいます。

このようにボールをコントロールしていたのはローレンスを始めとする攻撃陣でしたが、実質的にゲームを支配したのはブレット・ヴェナブルス守備コーディネーターの構築したクレムソン大守備だったのかも知れません。



このゲームから学ぶもの

今回王者となったクレムソン大は選手層の水準が高いもののCFBの歴史を動かす程のウルトラスーパータレント(バリー・サンダースやマイケル・ヴィックくらいのレベル)に依存していた訳ではなく、そして革新的な戦略や戦術を駆使していた訳でもありませんでした。チーム特性のスピードを活かしつつ対戦相手に効果的であると考えられるプレイの錬度を高めてゲームプランを練りに練ったという、シンプルながらソリッドな手法で臨んだ事が見て取れます。あくまで「横綱」に「平幕」が挑むような姿勢を崩さなかったのが最大の勝因と言ってもよいでしょう。

対照的に、対戦相手を地力でねじ伏せてきた今までの「横綱相撲」がゲームに対する綿密な準備や有事に対する調整能力をアラバマ大から奪ってしまっていたのかも知れません。振り返ってみると、SEC決勝での逆転勝利も選手の能力があったからこそという感じが拭えませんからね。

小手先の方法を「パッチワーク」して何とか上手くやろうというハリボテ的な「実力者」が世間でもてはやされている昨今でありますが、何だかんだ言ってクレムソン大のようなスタイルが勝利を掴むための「王道」であるという事を再認識させて貰えたような気がします。フットボール等の競技に留まらずあらゆるジャンルに通じるものを学べるという点で、CFBの歴史に残る屈指のゲームとなったのではないでしょうか。




[了]

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