2018年シーズン ボウルゲーム総評

2019年1月3日
日頃のDr.FOOTBALLの御愛顧、本当にありがとうございます。

本年も日本国内の「フットボール人」諸子へのさらなるインスパイアに努めて参りますので、引続き何卒よろしくお願い致します。

お正月の季語に挙げても良いボウルゲーム。そこで、王座決定戦に進出する二校以外はシーズンの締めくくりとなるCFBボウルゲームの総括をして参ります。今回もどうかお付き合いの程を。



新年六大ボウル

最初はプレイオフをローテーションで担当する「新年六大ボウル」から覗いてみましょう(今年プレイオフ準決勝となったオレンジボウルとコットンボウルについてはまた別の機会に紹介させて頂きます)。

※()内は所属カンファレンス名


ピーチボウル フロリダ大(SEC)vs ミシガン大(Big Ten)

とにかくミシガン大に「ミソ」がつくゲーム内容でした。

攻撃は多様なフォーメーションとプレイを用意しながら単調な攻撃となり得点を相手守備に許して貰えないという、フットボールで頻繁に見られるパラドックスにハマッてしまう事に。今シーズン通して、QBシェイ・パターソンやWRドノヴァン・ピープルズ=ジョーンズ等の攻撃タレントを活かしきれなかった感じが非常に口惜しい限りです。

守備においてもDLのパスラッシュ自体は良かったと思うのですが、LBとDBが完全にフロリダ大のスキルポジションとのマッチアップでやられていたのでズルズルとゲインされまくりました。カンファレンス内では苦戦していても、やっぱりSECのチームは強いですね…



フィエスタボウル ルイジアナ州立大(SEC)vs 中央フロリダ大(AAC)

二年連続のパーフェクトシーズンとSECの「虎狩り」を達成して世間に自らの力を認めさせたかったUCFこと中央フロリダ大でしたが、LSUことルイジアナ州立大の壁というよりも元来の先発QBマッケンジー・ミルトンの負傷離脱がかなりの痛手だったようです。カンファレンス決勝戦から代役を務めているD.J. マックもかなり健闘はしたもののミルトンのような「牛若丸」ステップは踏めず、幾度となく獰猛なLSU守備フロント陣の餌食となってしまいました。

結構優秀なLSUのDB陣とのマッチアップでUCFのWR陣が良い勝負していたのも印象的で、本当にミルトンの不在が悔やまれるトコロです。恐らく、現在のPac-12のチームにおいては殆どがUCFに勝てないのではないでしょうか。それくらいの強さを有しているチームであると個人的には感じています。



ローズボウル ワシントン大(Pac-12)vs オハイオ州立大(Big Ten)

QBドゥエイン・ハスキンスとPac-12よりPac-12っぽいレシーバー陣を擁するオハイオ州立大攻撃が前半から飛ばしていましたが、今シーズンを通しての課題だったリードを奪った後のボールコントロールの拙さがこのゲームでも露呈。後半のワシントン大の猛攻を許してしまいます。ワシントン大QBジェイク・ブラウニングが二年生時の「ファンタジスタ」感を発動しなかった事に助けられ、辛くもハスキーズのキャッチアップを阻止。このゲームを最後にコーチ業引退を表明していたアーバン・マイヤーHCの花道を何とか飾る形となりました。

ハスキンスは2019年のドラフトへのエントリー濃厚のようですが、前に体重を乗せる投げ方ともたつくフットワークを改善しないとNFLでは相当キツイような気がします。後半のワシントン大の逆襲を支えたRBマイルズ・ガスキンは小柄ではありますが、かなり良い選手になるはず。筆者がNFLチームのGMならばドラフトの指名リストに挙げたいと思います。



シュガーボウル テキサス大(Big 12)vs ジョージア大(SEC)

ゲーム前にテキサス大マスコットである牡牛のビーヴォ君がジョージア大のマスコット犬ウーガ君を追い回すという波乱の幕開けとなったシュガーボウル。

自陣深くにおけるPジェイク・カマーダのニーダウンにRBディアンドレ・スウィフトのファンブルという、ジョージア大が犯してしまった二つのボーンヘッドを得点に結びつけたテキサス大が序盤にリードを奪う形に。ゴツゴツ&ムチムチ系パサーのテキサス大QBサム・アーリンガーが自らのランでボールコントロールし、終盤のジョージア大による怒涛のキャッチアップをかわして試合終了。個人的にはかなり激しい撃ち合いを予想していたのですが、両校の守備が健闘してかなり締まった内容となりました。




その他のボウルゲーム

続いて、「新年六大ボウル」以外のボウルゲームで筆者が個人的に興味深く感じたものをご紹介させて頂きます。


ミュージックシティボウル パデュー大(Big Ten)vs オーバーン大(SEC)

レギュラーシーズンでオハイオ州立大を破り意気揚々のパデュー大と、2017年シーズンの強さが殆ど見られなかったオーバーン大。今シーズンにおける勢いが対照的に見える二校の対戦となりましたが、蓋を開けてみるとその実力差は歴然としている事が明らかになります。

オーバーン大QBジャレット・スティダムのTDショーと言わんばかりに、21回試投15回成功の373ヤードに5TD獲得とパデュー大守備を完全に蹂躙。オーバーン大守備フロントもパデュー大QBデヴィッド・ブローのパスを幾度となくディフレクト、頼みの綱である韋駄天WRランデイル・モーアにボールが殆ど到達しませんでした。セカンダリーの刺し込みも強烈でパデュー大のボールキャリアの前進をことごとく阻止、終わってみると63-14のフルボッコなスコアでゲーム終了。カンファレンスの「格」の違いを見せ付ける結果となってしまいました。



アラモボウル アイオワ州立大(Big 12)vs ワシントン州立大(Pac-12)

またもや「さすらいのヒゲ野郎」「CFB界の立川談志」ことワシントン州立大QBガードナー・ミンチューがやってくれました。プロフットボール名誉の殿堂入りを果たしたカート・ワーナーばりのリリースの速さは相変わらずですが、さらにフットワークの良さも披露しています。レギュラーシーズン最終週の直接対決で負けてしまったため仕方ありませんが、もしワシントン大の代わりにローズボウルに出ていたらオハイオ州立大に勝っていたかも…と個人的には感じております。

近年Big 12で伸張著しいアイオワ州立大もレギュラーシーズン通りの健闘を見せて、最後まで分からないゲーム展開となりました。



アウトバックボウル ミシシッピ州立大(SEC)vs アイオワ大(Big Ten)

こちらも最後の最後まで勝負の行方が分からない好ゲームでした。

強力ラインを背景に大型骨太QBニック・フィッツジェラルドがドカーンと投げてズバーンと走るという、ミシシッピ州立大の大味な攻撃スキームは相変わらず。2017年シーズン終盤につま先が明後日の方角に向く位の骨折をしてしまったフィッツジェラルドが、今シーズンはボウルゲームまで出場出来るくらい回復して何よりでした。対するアイオワ大の方は伝統的なLBとDBの良さは健在。以前こちらで紹介させて頂いたTEのT.J. ホッケンソンも終盤におったまげるプレイを披露しています。



ピンストライプボウル ウィスコンシン大(Big Ten)vs マイアミ大(ACC)

奇しくも昨シーズンのオレンジボウルと同じ組み合わせとなったピンストライプボウル。前回の対戦で地元にも関わらず苦杯を飲んだマイアミ大は復讐戦に燃えていましたが、敢え無く返り討ちに遭ってしまいました。

大黒柱のRBジョナサン・テイラーは205ヤードの爆走、守備陣も1つのファンブルリカバーに4つのインターセプトで計5つもテイクアウェイしてしまう鉄壁ぶりで、やはりウィスコンシン大の「中心線」の強さはハンパありません。あとはシャットダウン出来るCBとシステム越えを連発するWRがいれば、Big Tenタイトルも夢ではなさそうなのですが…

マイアミ大に関しては、さらに追い打ちをかけるように名伯楽マーク・リクトHCが辞任を表明。後任決定に関してもゴタゴタがあり、組織運営に暗雲が立ち込めている様子。常夏の地にも関わらず、残念ながらマイアミ大に「冬の時代」が再び到来しそうです。



アームドフォースボウル ヒューストン大(AAC)vs 陸軍士官学校(独立校)

エクスチェンジからのオプションプレイにプレイアクションパスというあくまでもランを基調にした攻撃、そしてハードヒットをかましまくる強固なラン守備。そんな20世紀のフットボールを陸軍士官学校は展開して、FBSでそこそこの実力を持つヒューストン大を圧倒しました。スプレッド攻撃や変則的守備が全盛の昨今で、ここまで徹底的にやってくれると感動の域に達します。どうやらレギュラーシーズンであのオクラホマ大を追い詰めたのも伊達ではなかったようです。

ひょっとすると同じ独立校でプレイオフに出場したあのチームよりも実力は上なのかも…



タックススレイヤーボウル ノースカロライナ州立大(ACC)vs テキサス農工大(SEC)

NCステイトことノースカロライナ州立大のエリートパサーであるQBライアン・フィンリーが、テキサス農工大守備に全く仕事をさせて貰えませんでした。パスプロテクションが決壊しまくっているトコロを投げ急いでインターセプトを喰らうという悪循環に。学生生活最後のゲームの内容としては口惜しい限りであります。

テキサス農工大に関しては、守備ラインだけであれだけのパスラッシュがかけられるとは驚異的です。スキルポジションにもタフな選手が揃っていますし、再びSECをかき回す存在になり得るかと思います。2018年シーズンから指揮を執っている名将ジンボ・フィッシャーの手腕たるや恐るべしです。



リバティボウル ミズーリ大(SEC)vs オクラホマ州立大(Big 12)

以前はミズーリ大がBig 12に在籍していたので頻繁に顔を合わせていた両校ですが、現在ではボウルゲームくらいでしか見られないカードとなっています。NFLも注目しているミズーリ大ドリュー・ロックとダークホース的存在だったオクラホマ州立大テイラー・コーネリアス、二人の好QBによる投げ合いでかなり見応えのある内容になりました。

春に開催されるNFLドラフトを控えてボウルゲームの出場を回避する輩が多い昨今、ロックは仲間達と最後までプレイをしたいという「漢」っぷりを表明。彼もNFLで先発を務められる能力と器を有しているので、応援しているNFLチームが指名した暁にはどうか喜んで下さい。今シーズンのオクラホマ州立大はカンファレンス内の成績は振るわなかったのですが、このゲームではカウボーイズが強豪である事を証明。それにしても、CFB界の竹内力ことマイク・ガンディHCは良いQBを育成しますね。



シトラスボウル ケンタッキー大(SEC)vs ペンシルヴァニア州立大(Big Ten)

今シーズン躍進を遂げたチームのひとつに挙げられるのがケンタッキー大。しかも猛者揃いのSECにおいてという事でさらに特別な意味を持っています。ケンタッキー大守備フロントは、ペンシルヴァニア州立大QBトレイス・マクソーリーのリズムを狂わせて得点を阻止。攻撃でもRBベニー・スネル Jr.が144ヤードに2TDを奪う活躍で、最終スコアこそ3点差ながら終始ゲームをコントロールしました。

そのQBが有する「品格」は、キャッチアップが厳しい状態であっても最後まで緊張感を持ってプレイし続けられるかどうかで判断出来ると思います。このゲームにおいて、まさしくマクソーリーはその「品格」の高さを証明しました。サイズ面でプロの世界では厳しいとする向きもありますが、筆者がNFLチームのGMならば間違いなく彼をドラフト指名する事でしょう。



ハワイボウル ルイジアナ工科大(カンファレンスUSA)vs ハワイ大(マウンテンウエスト)

レギュラーシーズン中にLSUやミシシッピ州立大のSEC所属校と当たっているルイジアナ工科大守備にとって、ハワイ大のパス攻撃を抑えるのはそれほど難しい事ではなかったようです。QBコール・マクドナルド擁するハワイ大攻撃もシーズン序盤こそ高い得点力を誇っていましたが、中盤以降は対戦校に20得点前後に抑えられるなど尻すぼみ感が否めませんでした。このゲームにおいてもレシーバー陣がフリーになっていない様で、マクドナルドが投げあぐんでサックされる場面が散見。同様の攻撃スキームを採用して強豪相手にもコンスタントに得点している、UCFのレシーバーユニットがいかに充実しているかを伺い知る事が出来ます。

そしてこのゲームが我々日本人にとって歴史的な意味を持つのが、日本の高校から単身ハワイに乗り込んだ伊藤玄太選手が最後のドライブでボールキャリーとパスキャッチを記録した事です。伊藤選手自身による「この3プレイが忘れらるくらい日本人選手が活躍する事を願って」という言葉に何も感じずにはいられません。"Boys, be ambitious."…いや”Guys, be ambitious,too.”…であります。





やはりSECは強し -ファンダメンタル・ルネサンス(基礎復古)の到来-

ボウルゲームの最大の醍醐味は、何といっても他カンファレンスの大学同士が「ガチンコ」で勝負するトコロです。歴史的に見ても何十年ぶりの対戦となるようなプレミアムなカードであったり、所属カンファレンス単位での「対抗戦」的に見る向きもあったりと、集客出来る要素がかなり詰まっていると言えます。

その「カンファレンス対抗戦」という観点からすると、今年のボウルゲームはSECの圧勝であったのではないでしょうか。SECが他カンファレンスの追随を許していない要因として…


①LBとDBのクオリティが非常に高い事。ボールキャリアーを刺しまくって余剰ゲインを許さず、長い時間パスカバーを維持出来るためカバレッジサックを誘発するシーンが多く見受けられる。

②スキルポジションにヒットへの耐性が強く運動量豊富である選手が揃っている事。純粋なスピードという点ではACCやBig 12の方に上回っている選手が沢山いると言えるが、一人のタックルでは倒れずゲームを通してヒットを受けまくってもヘタる事がない選手の数に関しては他の追随を許していない。

③選手層の厚さによるキッキングチームが整備されており、有利なフィールドポジションの確保と確実な3点の奪取がコンスタントに出来ている。


…という感じでしょうか。

他カンファレンスがスプレッド攻撃に対応出来る速くて上手い「オシャレ」な選手を集めて斬新な戦術をインストールしてきた間、「走る」「ヒットする」「捕る」というフットボールにおける基礎動作を選手に徹底的に叩き込んでベーシックなプレイをやり込むというスタンスをSECは維持してきました。しかも「投げる」の分野が唯一弱かったのも、ドリュー・ロックやトゥア・タゴヴァイロア等の登場により今や過去の話になりつつあります。

先述の陸軍士官学校の健闘にも反映されているように、これからのCFBのキーワードは「ファンダメンタル・ルネサンス(日本語にすると『基礎復古』みたいな感じ?)」になるのではないでしょうか。フットボールのトレンドの発信地であるCFB、これからの動きも見逃す事は出来ません。





[了]

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