スーパーボウルでのショートパスによるTD史【完結編】 邂逅、輪廻、なるか成仏…。

2015年3月2日

第49回大会 シアトル・シーホークス攻撃、最終プレー

マーショーンのランを明らかに警戒していたペイトリオッツディフェンス


いよいよ今回は、波紋を呼んだ第49回スーパーボウルでのシアトル・シーホークスの最終プレーに触れていきたいと思います。

ニューイングランド・ペイトリオッツが採用した守備のパーソネルは、6人のDLを中心としたもの。この日も「ビーストモード」を発動しまくっているRBマーショーン・リンチのランにがっつり的を絞っています。

ペイトリオッツのビル・ベリチックHCも「とにかくマーショーンのランを阻止する事を優先したかった」と後に語っていた程で、前線は守備選手がパンパンでその後ろはスッカラカンの状態となりました。

そんな状況を目の前にして頭によぎるのは、今まで皆さんと追ってきたスーパーボウルでのゴール前のTDの歴史ではないでしょうか。

そして選択するプレーは「タイミングの早いショートパス」になるかと。

シーホークス攻撃コーディネーターのダレル・ベヴェルは守備との論理的な関係を考慮しながらも、過去のスーパーボウルでのTDは当然頭に入っているはずなので、無意識にそれらのイメージが彼の頭に浮かんだ可能性も否定出来ないのではないでしょうか。

もしショートパスによる成功イメージがベヴェルの頭の中に微塵も無ければ、WRを3人配置するパーソネルではなく、2人のTEやFBを起用した重量密集隊型からマーショーンのランあるいはプレーアクションパスを指示していたはずです。

そういう訳で、あの最終プレーの選択は歴史の流れによる必然であったのかも知れません。

確かにリアルタイムで観戦していた際は「えぇーーーっ!!!」とプレー選択にビックリしてしまいましたが、誰もベヴェル個人を責める事は出来ないのではないかなと今は感じています。

シーホークス最終プレーのデザインについて


次にこの最終プレーのデザインについて復習してみたいと思います。

もう一度プレーを確認。

シーホークスの右(画面手前)内側のWRジャーメイン・カース(15番)が真っ直ぐに走り、その後ろをすれ違うように外側のWRリカルド・ロケット(83番)がルックインのルートをとっています。

カースの仕事は、対面するDBブランドン・ブラウナー(39番)を自分に引き付けてロケットの走路を開く事。そしてあわよくば、この夜のヒーローとなったCBマルコム・バトラー(21番)を巻き込むのも意図していたはずだと思います。バスケットボールで例えると、スクリーンプレーをイメージして頂ければ分かりやすいかも知れません。

しかし、ここで男前の働きを見せたのはブラウナーであると声を大にして主張したいです。真っ直ぐ走ろうとするカースのリリースを封じるため、バトラーが巻き込まれないようにブラウナーは腕を張ってこらえました。

あとは「走路」を見つけたバトラーがズドンとロケットのルートに突っ込んで、ボールと共にペイトリオッツの勝利を手中に収めたのは皆さんの御存知となる所です。

バトラーはブレイディ様からMVPの副賞であるシボレーを譲り受けましたが、もし僕がロバート・クラフトさん(ペイトリオッツのオーナー)であったならば、ブラウナーにメルセデスの一台でもプレゼントしてあげたでしょう。


分業と犠牲。フットボールというスポーツ


RBが自在に走りまくれるのはOLのブロックがあり、LBがばしばしタックルを決められるのもDLが押されないようにこらえているからこそ。ある選手の目立った動きは誰かがお膳立てをしている訳で、フットボールとはそういう競技であるという事…それをこのプレーで再認識して頂けると幸いに思います。

攻守ともに仲間のためにプレーをした凄まじい鍔(つば)ぜり合いで締めくくったスーパーボウル、最高ではないでしょうか。

邂逅、輪廻、成仏…。

第43回大会 ピッツバーグ・スティーラーズ vs アリゾナ・カーディナルズ


シーホークスの最終プレーを見終わった後に既視感(いわゆるデジャヴ)が僕の中に残ったのですが、過去を紐解いてみるとその答えがほどなく見つかりました。

ピッツバーグ・スティーラーズとアリゾナ・カーディナルズによる第43回大会で、スティーラーズOLBジェイムス・ハリソンにインターセプト・リターンTDを献上してしまったカーディナルズのプレーを御覧下さい。


このプレーをよく観察すると、シーホークスの最終プレーと同じエース隊型と呼ばれるフォーメーション(左右の配置は反対、シーホークスはモーション後の最終隊型)である事がお分かりになると思います。

WRを二人配置している側のパスパターンにも注目すると、内側のラリー・フィッツジェラルドが真っ直ぐに走り、その後ろを外側のアンクワン・ボールディン(現サンフランシスコ・49ers)がスッと入り込む…シーホークスのカースとロケットのコンビが行った動きと全く同じです。

さらにシチュエーションに関しても、前半と後半の違いはあるものの敵陣深く攻め込み残り時間が少ないという点において酷似しています。

ただ大きく異なるのは、インターセプトしたのがDBではなく、パスラッシュしようと見せかけて後ろに下がったOLBのハリソンであった事です。

ショートパスの性質上、QBは決められたタイミングで「ポン」と投げなければなりません。ベテラン名QBのカート・ワーナーといえども、スナップ後のちょっとした異変に気付いてターゲットを切り変える事はかなり厳しいですからね…

QBからすればスナップ前の守備配置を見ると「もらった!」と思っていたところ、いざ投げ終わったら「マジかよ!?」という感じです。シーホークスQBラッセル・ウィルソンについても同様の感触であったのではないでしょうか。

インターセプトされた原因が異なるものの、同じプレーで同じ結果を招いてしまったという事に、何やら因縁めいたものを感じずにはいられません。

これからスーパーボウルが新しい歴史を刻んでいく過程で、ひょっとするとまた同じような状況で同じようなプレーにお目にかかるかも知れません。
そして、今度は一体どのような結果になるのでしょう…

仏教的な観点のようになりますが、その時はこのプレーが負の「輪廻」から脱してTDを成就している事を願うばかりであります。





【了】

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