2018年 – ブラウンズが期する捲土重来。【後編・首脳陣】

2018年7月27日
前回紹介させて頂いた活きの良い「素材」を「調理」してくれるであろう首脳陣に注目しながら、今回はクリーヴランド・ブラウンズの2018年シーズンを占って参りたいと思います。

【HC】ヒュー・ジャクソン 【GM】ジョン・ドーシー

就任した2016年シーズンは1勝16敗。そして昨2017年シーズンは0勝16敗の「裏」パーフェクトシーズン達成。普通なら「手打ち」になるトコロを2018年シーズンも続投という奇跡の人、それがヒュー・ジャクソンHCであります。イケメン青年GMサーシ・ブラウンが昨シーズンの責任を取らされているにも関わらず…オーナーであるジミー・ハズラムの弱味でも握っているのでしょうか。

ブラウンの後を引き継いだのはジョン・ドーシーGM。NFLでの選手経験もあり、引退後はグリーンベイ・パッカーズ等でスカウトを中心にキャリアを積んで、最近ではカンザスシティ・チーフスでGMを務めていました。今までパッカーズが生え抜き選手で成功している例を考えると、そこで培ってきたドーシーGMの「目利き」については確かなものがあるのかも知れません。

やはりネックとなるのがジャクソンHCの指導力ですが、それを補うものが今のブラウンズにはあります。ジャクソンHCの下にいる二人の「虎」の存在です。


【攻撃コーディネーター】トッド・ヘイリー

最初の「虎」は、2018年シーズンより攻撃コーディネーターを務めるこちらのトッド・ヘイリーになります。
昨年まではピッツバーグ・スティーラーズにて同職を務めていましたが、スティーラーズの攻撃を見て頂ければ手腕が確かなのは一目瞭然。あまり上手くはいきませんでしたが、カンザスシティ・チーフスでのHC経験もあります。

ヘイリーが率いる攻撃の特長を存分に堪能出来るのが、こちらの2008年シーズンNFC決勝。当時はアリゾナ・カーディナルスで攻撃コーディネーターを務めていました。

NFLの安西先生ことアンディ・リードHC(現カンザスシティ・チーフス)率いるフィラデルフィア・イーグルスが非常に高い得点力を有していたため、カーディナルスは攻撃で「仕掛け」を行い前半に得点差をつけてイーグルス攻撃にプレッシャーを与えるというプランで臨みました。それに対してドノヴァン・マクナブ擁するイーグルス攻撃も後半に怒濤のキャッチアップを見せて逆転に成功しますが、カーディナルス攻撃が見事なドライブを見せて再逆転。筆者と同い年のカート・ワーナーがスーパーボウルへのカムバックを決めた事もありますが、Dr.FOOTBALL的には今まで観たフットボールのゲームの中でトップ5にランクインしている名勝負です。

ヘイリー率いる攻撃の最大の特長として、「フィリー・スペシャル」と呼ばれるフリーフリッカーを第2クォーターの初っ端に仕掛けてTDを奪い、第4クォーターの再逆転ドライブにおいてスクリーンをゴール前で敢行する等、プレイコールのタイミングが絶妙である事が挙げられます。また、エッジャリン・ジェイムズ、ティム・ハイタワー、J.J. アーリントンの3RB併用システムもよく機能しており、これを現在のブラウンズ攻撃に適用するならばさらに高い効果が得られるかも知れません。

逆にヘイリーについてよく問題とされるのが、選手との間に軋轢を起こしやすい点です。名将ビル・パーセルズの門下生という事もあってか選手に対して歯に衣着せず言い放つタイプのコーチで、スティーラーズ離脱もエースQBビッグベンことベン・ロスリスバーガーとの確執が主な原因だと言われています。カーディナルス時代も、カート・ワーナーやアンクワン・ボールディンとサイドラインでよく言い合いしていましたし…

2018年シーズンにおけるブラウンズの先発QBについても、心情的にはヘイリー自身がコントロールし易い選手を起用したいのが正直なトコロではないでしょうか。現時点ではある程度実績のあるタイロッド・テイラーが先発有力というコメントをしていますが、イチから自分色に染められるベイカー・メイフィールドへのスイッチはそんなに長くかからないような気がします。

ヘイリー「HC!来週から先発はコイツで良いっスよね?!」
ジャクソン「あっ、うん、はい…」

…みたいな感じで、ジャクソンHCよりもヘイリーの意向が強く反映されるように思います。


【守備コーディネーター】グレッグ・ウィリアムズ

もう一人の「虎」は昨2017年シーズンから守備コーディネーターを務めている、こちらのグレッグ・ウィリアムズです。
この人の名前を聞いて「おやっ?」と思われた皆さんもいらっしゃるかと思いますが、ニューオリンズ・セインツ在籍時代に「報奨金」スキャンダル(対戦チームの攻撃選手を負傷させた自軍選手にボーナスを支払っていた)で波紋を呼んだあの方であります。

そのようなスキャンダルがあったとは言え、守備コーディネーターとしての手腕が確かである事は間違いありません。それを証明しているのが、セインツの初制覇となったこちらの第44回スーパーボウルになります。
脂が乗り切った最盛期のペイトン・マニングを軸に、TEダラス・クラーク、RBジョセフ・アダイ、WRではレジー・ウェインにピエール・ガーソン&オースティン・コリーの若手コンビと豊富なタレントを擁したコルツの超ハイパワー攻撃をよくぞここまで抑えたものだと、今更ながら感心させられます。

基本的にウィリアムズは4-3守備を採用していますが、DLのスタンツやLBのブリッツを駆使してアグレッシブにパスラッシュをかけるスタイルを好みます。このゲームにおいて前半はコルツ攻撃にややコントロールされがちではあったものの、後半になっても臆する事なく激しいパスラッシュを敢行。その結果、ブリッツの裏に入るレシーバーへのパスを読んだCBトレイシー・ポーターが「Pick 6」を決めてセインツの勝利を確かなものにしました。後半にそこそこパスを決めたドリュー・ブリーズよりも、横綱の寄りを徳俵でこらえて投げ返したようなセインツ守備チームの方がMVPに値するのではと個人的に感じています。

さて2017年シーズンのブラウンズ守備のデータに注目すると、トータル喪失距離について32チーム中14位なのはまずまずですが、ゲームあたりのラン喪失ヤードに関して100ヤードを切っているのはアッパレだと思います。あとは、パスでの喪失ヤードとワーストに近い失点を改善したいトコロ。その観点からすると、デンゼル・ウォードやデマリアス・ランドールの獲得には合点がいきます。DBのマンカバーがしっかりすれば、ウィリアムズお得意の激しいパスラッシュもかけられますからね。



船頭多くして、船は山に登るや否や…。

バカ殿…もといジャクソンHCの下にこのような優秀な人材が揃った2018年シーズンのブラウンズ。攻撃と守備の各ユニットが改善される明るい見通しだけではなく、宋王朝の秦檜と岳飛よろしく「両雄ともに並び立たず」の故事の例を無視してはならないように感じます。冒頭に「虎」と形容しただけあってヘイリーとウィリアムズは共に猛々しい性格の持ち主である事に加えてNFLでのHC経験(ウィリアムズはバッファロー・ビルズにて)がある故に、何がきっかけで「城主」であった頃の「矜恃」が衝突するか分かりません。

NFLにおける「故事」の例として、こちらのヒューストン・オイラーズにおけるケヴィン・ギルブライト攻撃コーディネーターとバディ・ライアン(レックス&ロブの父上)守備コーディネーターの「バウト」を御覧下さい。
全国中継されている中で良い大人(この当時バディさんは62歳という)がパンチをかますとは、よっぽどイライラしていたんでしょうね…選手がコーチを制止するという非常にレアな映像であります。エンターテイメント的にはナイスな絵かも知れませんが、万が一こんな事態が再現されれば即ブラウンズの2018年シーズンが終了となってしまうのは必至。ジャクソンHCのリーダーシップに疑問が残る以上、あとは二人の「虎」が表向きだけでも仲良くやってくれる事をファンは祈るしかないでしょう。


最後のプレイオフでの勝利から24年。

クリーヴランド・ブラウンズが最後にプレイオフで勝利したのは24年前まで遡ります。

そして、当時HCを務めていたのは…
「名将」という枠すらも超えてしまった感がある、ニューイングランド・ペイトリオッツの現職ビル・ベリチックHCその人であります。かつて師事したビル・パーセルズが率い、そして将来自分が指揮して「王朝」を築く事となるペイトリオッツが相手であったのには何か運命めいたものを感じずにはいられませんね。

そしてこのベリチック政権下では、マイク・ロンバルディ、オジー・ニューサム、トーマス・ディミトロフ、スコット・ピオーリ、ジム・シュワルツ、エリック・マンジーニ等々、近年のフットボール界のマネジメントやコーチングでその名を轟かす人材がワンサカ在籍していました。何と言っても、もっさい眼鏡をかけて守備コーディネーターを務めていた青年コーチが、カレッジフットボール界で「ニック・セイバン」というブランドを築き上げるとは誰も予想はしていなかった事と思います。いわば、フットボール界の「トキワ荘」ですね。

当時のブラウンズはそこそこの中堅選手や峠を越したベテランで何とかやりくりする状態で、2018年現在よりもタレントの面で劣っているのは明らかでした。にも関わらずプレイオフに進出して勝利出来たのは、ひとえにベリチックHCの手腕あってこそ。現在のジャクソンHCには荷が重い気がしますが、ファンの皆さんとしても当時の勢いを再びという期待を抱いているのは間違いありません。


恐らく今シーズンの滑り出しがマズければジャクソンHCのシーズン途中の解任は免れず、昨シーズンから加わっているグレッグ・ウィリアムズがHCを代行する事はほぼ間違いないでしょう。そこまでのストーリーは予想し易いと思いますが、その後にブラウンズの組織内でどのような「ケミストリー」が起こるのかは筆者自身も想像だに出来ないのが正直なトコロです。

いずれにせよ、筆者のような古豪復活を期待する「フリンジ」なファンとしても、一生懸命プレイしている選手達、そしてボルティモアに移転したチームに「ブラウンズ」の呼称を譲らなかった熱烈なファンの皆さんにとって昨年より良いシーズンになる事を願うばかりであります。



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