カレッジからNFLへ。デショーン・ワトソンの魅力に迫る。

2017年6月9日
ヒューストン・テキサンズ入りが決定し、カレッジ界から遂にNFLのATSUSHIとなった元クレムソン大QBデショーン・ワトソン。NFLの歴史に残る「スーパーヒーロー」となるやも知れない彼の魅力を、今回は余す事なく追っていきたいと思います。


クレムソン大タイガース時代のハイライト

まずは全米王座決定戦でWRハンター・レンフローに決めた逆転サヨナラTDパスもバッチリ収められた、学生時代のハイライトを改めてどうぞ。
システム越えを連発する「ファンタジスタ」タイプではありませんが、自軍の攻撃を適切にドライブする「司令塔」としての能力がデショーンの最大のセールスポイントと言って良いでしょう。それにしてもクレムソン大の攻撃は、ゾーンリード、プレイアクション、速いタイミングのパス、フェイドパターンとバックショルダーのコンビネーション、QBのパワーオフタックル等、定番プレイの良いイメージを与えてくれるため非常に勉強になります。



デショーン・ワトソンの素顔に迫ります。

こちらは第51回スーパーボウル直前のニューオーリンズに招かれた時のインタビューの模様です。学生時代におけるファッションと爽やかさの点では、この時のMVPであるトム・ブレイディに完勝と言っても差し障りないでしょう。

イカすぜ、デショーン!

Source:Deshaun Watson on draft preparation, fashion, and being compared to Jordan | Super Bowl 2017 on YouTube.com

 

 

 

こちらはプロ入りに向けてトレーニングする様子です。ボクシングをする姿も矢吹丈みたいで画になります。

イカすぜ、デショーン!

Source:Deshaun Watson Prepares For Houston Texans on YouTube.com

 

 

 

お次は2017年NFLドラフトの直前に会場となったフィラデルフィアの街頭で、何とデショーンが自分の名前を伏せてドラフトについてのインタビューを敢行するという大胆企画になります。現地の方にとっても、フットボール選手はヘルメット越しの顔しか認識されていないみたいですね…

TVクルーみたいなテロテロのジャンパーを着ていても野暮ったくならないのは流石であります。

お茶目だぜ、デショーン!
高校生のデショーンはと言うと、こんな感じでした。当時から腕力に頼らず、回転数を上げてボールを飛ばしているのは流石であります。こういう球質のロングパスはなかなか下に落っこちてこないため、WRはアジャストし易くDBは守りにくいんですよね。

若いぜ、デショーン!

ドラフト指名直後 母からのメッセージに涙。

今度は、テキサンズからドラフト指名を受けた直後に最愛の母上からのメッセージを読み上げるシーンをどうぞ。昭和のレコード大賞のような感じで何だかジーンときてしまいますね。

父親不在の家庭であった事、母上が癌のため舌の大部分を切除しているため会話がスムーズに出来ない事、これから母親と兄弟達を養えるようになる事、そして長年の夢であったNFL選手になった事…様々な事柄に対する感情が入り混じった涙のように思います。

かつてNFLで活躍した「小さな巨人」RBウォーリック・ダンがアトランタ・ファルコンズ在籍時に恵まれない家庭へ住居を提供するキャンペーンを敢行しましたが、実はワトソン家もその対象でありました。女手ひとつで子供達を育ててきた警察官の母上が警備中に射殺されてしまうという痛ましい経験をダン自身がしており、自分のような境遇の子供達にも決して希望を捨てて欲しくないという気持ちから撒いた「種」が芽吹いたようです。

泣かすぜ、デショーン!

大物の器!? 『QB Camp』でも泰然自若。

NFLに進むカレッジQBにとって閻魔大王のような存在であるこの方にも、勿論デショーンは「謁見」しております。

NFLマンデーナイトゲームの解説でお馴染み、ESPNの看板アナリストであるジョン・グルーデンの冠番組『QB Camp』にデショーンが招かれた回をどうぞ。近ごろ視聴率が振るわないESPNはアナリストやレポーターを大量に解雇するリストラを断行していますが、この人に関してはその心配とは全く縁遠いように見えます。

学生時代のマズいプレイをネタにグルーデンから大きな声でイジられるQB達は萎縮してしまうか愛想笑いでごまかすのが大抵のパターンですが、デショーンに関しては終始落ち着いた感じで受け答えしているのが印象的です。泰然自若というか、良い意味での「鈍感力」というか…いずれにしろ些細な事に動じない「胆力」を証明していると思います。デショーンから全米王座決定戦の決勝プレイの説明もあり、QBのランが第三選択で反対側から走り込むレシーバーに投げるのが第四選択というプログレッションは個人的に興味深く感じました。

守備ラインから「ハエ叩き」され易い、ロングボールをFSに奪われてしまう等、さらにレベルの高いNFLでやっていくために修正すべき点がまだまだある事をグルーデンは指摘していますが、デショーンの中に秘めている「何か」を感じ取ったせいかいつもより丁寧かつ熱くアドバイスしているような気もします。二種類のプレイをハドルで伝達する"KILL"コールのレクチャーもありましたが、これはNFL観戦の時に注目するポイントになりますね。

フィールドでのデモンストレーションに注目すると、デショーンのハドルでのプレイを伝達するトーンとリズムが実に絶妙である事を御理解頂けると思います。僕自身「他の10人の士気を上げるつもりでハドルの中でプレイを伝えなさい」と教えられた事がありますが、これもデショーンが能力以上の「何か」を発揮する秘密のひとつなのかも知れません。

頼もしいぜ、デショーン!

Source: Gruden’s QB Camp: Deshaun Watson on YouTube

 

 

 

2代目 褐色のモンタナ

Dr.FOOTBALLがデショーンを追い続けている理由について、この人物の存在を抜きに語る事は出来ません。

元フロリダ州立大セミノールズQBチャーリー・ウォードは、1993年にハイズマン賞と全米王座を獲得したカレッジ界のレジェンドのひとりであります。御覧のしなやかな動きから繰り出されるプレイぶりを見て「褐色のモンタナ」と勝手にあだ名をつけたものでした。

NFLではどんなプレイをするんだろうと楽しみにしていましたが、バスケットボールでも名パサーであった事から何とドラフトされたのはNBAのニューヨーク・ニックスだったという…結局NFLでプレイする姿を拝見する事は叶いませんでした。それにしても、フィリップ・リヴァースやマット・ライアンにマイケル・ヴィック等のNFL選手を抑えてACC歴代No.1のQBに選出されるとは恐れ入ります。

そんなウォードの投げて走る「雅やか」な姿を彷彿させてくれるのが、現在のデショーン・ワトソンです。奇しくも同じジョージア州出身という事もあり、二十年越しにNFLでの活躍を見届けられるような気がしてワクワク感が収まらない次第であります。

カレッジからNFLのスーパーヒーローへ。

最後はデショーンのプレイについて評価している動画をどうぞ。このシリーズは、NFLネットワークのミーハーな分析に比べて格段にポイントを得ているため色々と参考になります。他の選手についても言及しているものがあるので、お時間あればそちらも覗いてみて下さい。

やはりデショーンに関しては、エンドゾーンに落とすパスの精度が素晴らしくランナーとしても優秀である等の長所がある反面、ターゲットの判断やロングボールの精度が不十分である等の課題点も多く指摘されています。最初の1~2年間は控えとしてNFLのフットボールを学ぶ時間をとるべきという、こちらの提案には僕も激しく賛成です。幸いな事に年齢の近い大学の先輩であるWRデアンドレ・ホプキンスがチームメイトにいるため、クレムソン大とテキサンズの攻撃システムにおける相違を学び易い環境にあるのではないかなと感じます。

デショーンのプロ生活で心配なのはあと二点あり、ひとつは細いくせに勇敢なあまり重篤な負傷をしてしまう危険性がある事。全米王座決定戦では良いヒットをガンガン貰いながらも立ち上がったのは感動モノでしたが、カレッジとNFLではヒットの「質」が全く違うので走る時にはどうか自重して欲しいものです。

あともう一点は、「さげまん」に引っ掛かる心配であります。NFL選手となってセレブリティの仲間入りを果たした訳ですが、それは同時に彼のルックスやステイタスそしてサラリーにつられて悪い「虫」が寄ってくる機会も激増する事を意味します。その傾向が見られる先輩方(シアトルの誰とは言いませんが…)の例を反面教師として、くれぐれも交際相手は慎重に選んで頂けると幸いに思います。

「スーパースター」は人々に「羨望」を与えるに留まりますが、「スーパーヒーロー」は人々に「勇気」を与えてくれる存在です。間違いなく後者であるデショーンが最大の武器である「リーダーシップ」を供にNFLのフィールドでプレイする日を、今は焦らず待っていきましょう。





[了]

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