真のスポーツ「ファン」とは何かを考える。-数多のナショナルチームの快挙を「ブーム」で終わらせてきた日本の文化的背景-

2015年11月6日

快挙による世間の関心の増加 ≠ レギュラーシーズン観客数の増加

ラグビー日本代表がW杯での快挙で一躍脚光を浴びていますが、現場でラグビーに携わる皆さんはこの「ブーム」を手放しで喜べず、これからが勝負であると考えられているのではないでしょうか。21番のRBが活躍する漫画人気の勢いを活かし切れなかった某フットボールの轍を踏まない事を祈るばかりです。

代表選手が首相官邸に招待された際、インタビュアーから一言求められたリーチ・マイケル主将が「トップリーグの方もよろしくお願いします」とPRされていました。少しでもチャンスを活かそうとする試みはとても素晴らしいと感心させられましたが、同時にシビアな見方をすると、五千円のお小遣を五万円にアップしてもらうくらいキビしいお願いのようにも感じました。

というのは、なでしこJAPANこと女子サッカー日本代表や女子ソフトボール日本代表が世界大会でセンセーショナルな好成績を挙げたにも関わらず、レギュラーシーズンでの集客数がアップした訳でもなく、また彼女達の待遇や地位が継続的に向上していない例が頭によぎったからです。わざわざスタジアムまではちょっと…これから寒くなるし…国内リーグだからレベル高くないんでしょ?…今大会熱狂的に応援された皆さんの中でも、このような声が大多数なのではないのでしょうか。

加えて、日本でスポーツの話題を持ち出している人において「ファン」よりも「ブーマー」の割合が断然多いのではないかと僕個人は考えています。

主流派 「ブーマー」 を生み出す日本的精神文化

「ブーマー」=結果のみに関心のある人々(辞書によると「新興地に殺到する人々」という意味もあるとか)と捉えています。応援しているチームが勝利すると"We won!"と盛り上がり、敗退すると"They lost…"とササーっときびすを返してしまう…いずれもオリンピックやW杯などの世界大会後によく見られる現象ですよね。

一方、「ファン」=プロセスも含めて関心を持っている人々であると思います。万年最下位だった頃の阪神タイガースや浦和レッズを応援されていた方々はまさに好例で、ここのところ低迷が続くNFLシカゴ・ベアーズを長年応援している僕の友人もこの人達にあたると思います。

以前聞いた話によると、競馬などのレース系スポーツ「ファン」の一番好きな事は「予想が当たって勝つ」で二番目に好きな事が「予想が外れて負ける」だそうですが、漫画家の蛭子能収さんが「今日はこれだけ負けました」というコラムを競艇雑誌に嬉々として寄稿されているのもそういったレース「ファン」魂を象徴しているように感じます。

我が国で「ブーマー」が主流派である背景として、「勝てば官軍」という言葉に象徴されるように結果オーライで片付けてしまう精神文化が影響しているのではないか、そしてこのような精神文化が醸造されるのは各家庭や学校での教育も大きく関係しているのではないかと個人的にニラんでいます。「試験にパスしてその団体に所属出来ればOK」「公に認められた資格を取得すれば安泰」といった意図が学生の学習スタンスに反映されているのは、仮に教育現場に立っていなくとも身近に感じられるのではないでしょうか。

日本人は局地的な「戦術」では良いモン持ってるけど、大局的な「戦略」をもって物事を捉えるのはイマイチやねーと諸外国から評価されがちなのは、根底にある「結果>プロセス」の不等式を崩せないところにあるのかも知れません。

プロセスに注目せよ! 快挙を創り出すのは不断の蓄積=プロセス

時間という点に注目すると「結果<プロセス」と不等号が逆になるため、継続的に物事を取り組むためにはプロセスと長く付き合う事が自然の流れになります。所属や役職が決定するのは一瞬ですが、そこで学んだり務める方が相当な時間になりますからね。どうせ長く付き合うならば楽しんだ方に越した事はないと僕は強く感じます。

スポーツのプロセスを楽しむ=世界大会やチャンピオンシップだけでなくレギュラーシーズンの試合も楽しむ、なおかつ試合までのプロセスである練習すらも楽しむ…これらが出来る方々を真のスポーツ「ファン」と呼ぶべきではないでしょうか。

僕自身フットボールに関しては、大差がつく様な試合であっても、そして良いプレーだけでなく目も当てられないすっとこどっこいなプレーも含めて楽しんでいます。どこのチームが勝っても、そして誰が活躍しても素晴らしい試合内容であるならば、なお御満悦。そういう意味で、自分は根っからのフットボール「ファン」であるという自負があります。

根本的に日本の精神文化ではこういった「ファン」が育ちにくいのか、あるいは「ファン」を育てる土壌がまだ出来ていないのか…どちらであるかを判断するには暫く時間を頂けると幸いに思います。

[了]





同じカテゴリーの記事一覧

ページのトップへ戻る