ドラフト・補強戦略から紐解くデンヴァー・ブロンコス、エルウェイGMが目指す王朝【後編】

2018年6月20日
エルウェイGMのチーム作りについて掘り下げてみると、史上ベストゲームのひとつに数え上げられる第32回スーパーボウルに行き着くように思われます。当時エルウェイGMは30代後半の大ベテラン選手でしたが、今も語り草の「ヘリコプタープレイ」に象徴されるハツラツな「若大将」っぷりで光を放っております。

エルウェイGMが目指すチーム像とは…?

当時NFLで無双を誇っていたQBブレット・ファーヴとDEレジー・ホワイトを擁するパッカーズの猛攻と堅守に、下馬評で劣っていたブロンコスは素晴らしい戦いぶりを披露してくれました。

ブロンコスの攻撃陣に注目すると、大黒柱の不知火型RBテレル・デイヴィス、WRの両翼に現カロライナ・パンサーズRBクリスチャンの父上エド・マキャフリーと職人ロッド・スミス、ここぞのキャッチが頼もしかったマッチョマンTEシャノン・シャープ、デイヴィスのゲインの前には必ずその姿があったFBハワード・グリフィス、全体的に小粒ながらもカミソリのように鋭いブロックをかましていた攻撃ラインのユニット。

いっぽう守備陣では、インテリアラインにスピード派のニール・スミスと長身のアルフレッド・ウィリアムズ、「カツアゲリフト」でブロッカーをいわせていたLBビル・ロマノウスキー、ハードヒットに定評があったSスティーヴ・アトウォーターとボールへの執念が凄まじかったCBタイロン・ブラクストン。

攻守各ポジションに核となる選手が存在していましたが、恐らくこの時のチームをエルウェイGMは再現したいのでしょうね。「アイツに当たるのはコイツだろ、あとは…」みたいな感じで選手をリサーチしていた様子が、昨今の補強からヒシヒシと伝わってきまます。現在ブロンコスのロスターに名を連ねている選手達を、上記の御歴々に照らし合わせてみると面白いかも知れません。


デンヴァー・ブロンコスの今オフの補強戦略

参考までに、このオフシーズンで他チームから獲得した選手にもスポットを当ててみましょう。

QB ケイス・キーナムをミネソタ・ヴァイキングスから

昨2017年シーズンに一躍ブレイクを果たしたケイス・キーナムをミネソタ・ヴァイキングスから先発QB待遇で迎えています。ぱっと出の選手に皆さん思われるかも知れませんが、筆者としては今まで日の目を見なかったのが逆に不思議で仕方ありませんでした。

ヒューストン大時代の3シーズンそれぞれ5000ヤード以上のパス獲得距離をマークした「化け物」パサーで、カレッジの名将(確かルー・ホルツだったような…)をして「フットボールという競技を変える逸材」と言わしめた選手であります。流石にエルウェイGM自身が身に着けていた背番号7は渡していないものの(キーナムは背番号4を着用)、自分の現役時代と似ているプレイスタイルに相当の期待を寄せている事と思われます。


P マーケット・キングをオークランド・レイダースから

同じAFC西地区所属の「天敵」であるオークランド・レイダースから契約解除されたタイミングで獲得した、リーグを代表する「迫撃砲」であるPマーケット・キングも目玉補強選手の一人であります。

近年ブロンコスはキングのゴールラインから10ヤード以内にビタ止めするパントに悩まされていたため、彼の獲得によってそれを解消する事になるでしょう。かつてカンザスシティ・チーフスが誇る主力エッジラッシャーであったニール・スミスを獲得してエルウェイの負担を軽減した前例しかり、同地区ライバルの主軸選手獲得によって懸念材料を解消するのは、ある意味ブロンコスの「お家芸」であるような気がします。


SS スーア・クレイヴンズをワシントン・レッドスキンズから

守備において際立った補強選手は、2018年ドラフトでの第四巡と第五巡の指名権トレードでワシントン・レッドスキンズから獲得したSSスーア・クレイヴンズです。

LBの属性が強く、レシーバーの前に飛び込むパスカバーと的確なブリッツに定評がある選手であります。まだNFL歴3年目のピチピチでルーキー二人分の交換で獲得しただけあって、目下売り出し中のCBクリス・ハリス・Jr.と共に守備バックの中核を担ってくれる事をエルウェイGMは期待しているでしょう。


補強のラストピースはコーチ陣。

これまでの選手補強に関しては文句なしの花マルをあげたいのですが、ラストピースとしてネックとなっているのがコーチ陣かも知れません。

ウエストコースト攻撃を熟知したマイク・シャナハンHCに長年エルウェイのバックアップを務めていた経験より勝手知ったるゲイリー・クービアク攻撃コーディネーター(後にHC就任、スーパーボウル制覇は記憶に新しいかと)という二本の太い「柱」が、第32回スーパーボウル出場時には存在していました。

対照的に現在のヴァンス・ジョセフHCはというと、昨2017年シーズンの優柔不断な先発QB起用からリーダーシップに疑問を禁じえないというのが正直なトコロです。

攻撃コーディネーターのビル・マスグレイヴも、教科書通りの戦術で手詰まる傾向があるため心許ないカンジです。何か攻撃に「遊び心」が足りないんですよね…

明らかに先の御二方に比べるとパンチ不足なのは否めません。いちおう上級人事アドバイザーという役職にクービアクが就いているようですが、シーズンが深まって成績が芳しくなかった際にHCの首をスムーズにすげ替えられるための「保険」に思えてしまう配置です。

「一頭の狼に率いられた百頭の羊の群れは、一頭の羊に率いられた百頭の狼の群れに勝る」

フランスの歴史にその名を刻む軍略家ナポレオン・ボナパルトの言葉を思い出しました。これは18世紀の軍事だけでなく、現代における競技全てにおいて間違いなくバチンと当てはまるような気がします。確かにブロンコスは「狼」のように勇猛な選手が揃いつつありますが、サイドラインでの指揮官は明らかに「羊」。対照的に同地区の「天敵」オークランド・レイダースは、誰がどう見たって「狼」大将であるジョン・グルーデンHCが再び指揮を執ります。しかもトレードやフリーエージェントを駆使して「狼」を集めまくっていますからね…

2018年シーズンは早くも第2週で顔を合わせる事になりますが、明暗が分かれるとすればこのゲームが必ずやポイントとなるでしょう。

ともあれ、戦力が充実してチャンスが巡ってきた事には変わりないデンヴァー・ブロンコス。「将軍様」エルウェイGMが目指す「王朝」の礎は果たして築き上げられるのか…今シーズンのブロンコスは要チェックです。



[了]

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